「タカヤ」
俺はタカヤの名を呟いた。
タカヤの瞳には恐怖の感情が滲み出ている。
「なんて顔してんだよ。」
タカヤの頬に触れる。タカヤの体は、ビクンッと跳ねた。
「タカヤ。」
「も…とき…さ…っ…。」
「笑えよ、タカヤ。」
俺が触れたタカヤの頬は赤くなる。
赤い血がべっとりとついて、タカヤが汚れてしまった。
拭き取ろうと拭っても拭っても、血は広がっていって、キリがない。
「お前が言ってた奴は、もういないんだぜ?」
「ちが…!俺は…そんなこと…っ!!」
タカヤの目の下にははっきりとした隈。きっと連日の無言電話で寝れなかったのだろう。
可哀想なタカヤ。
でも、もう大丈夫だ。俺が助けてやったから。
だから、そんな顔して泣くなよ。
自分を責めるような、俺に申し訳なく思っている様な顔、するな。
「タカヤ…泣くなよタカヤ。タカヤ、タカヤタカヤタカヤタカヤたかやたかやたかやたかやたかやたかや…!」
「ごめん…なさ…っ…ごめんなさい元希さん…っ…!」
タカヤが俺を抱きしめる。
温かなタカヤの温度が俺の体に染み渡る。
血濡れたシャツが、またタカヤを汚してしまうなと頭の隅で思った。
このナイフは、もう使い物にならないだろう。赤色に染まったナイフは俺の手から滑り落ちた。
「タカヤ…。」
「元希さん…。」
隆也が俺の胸から顔を上げる。
「死体、埋めに行きましょうか。」
「……タカヤ、お前…。」
「元希さんだけに任せておけません。」
タカヤの瞳から、恐怖が消えた。
代わりに、タカヤの瞳には決意の様な光が宿る。
「これは、2人だけの秘密ですよ。」
タカヤの口から紡がれたその言葉は、俺とタカヤを繋ぐ鎖になって、俺を喜びに打ち震えさせた。
俺はきっと死ぬまで人殺しで居るしかないんだろうけど、
それでタカヤが傍に居てくれるなら、タカヤを縛りつけておけるなら、
俺にはなんの後悔も、無い。
2007/12/13黒野朱鷺
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