バイトを終えて家に帰ると、
妹がメイドだった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「……………あ、あぁ。ただいま」
黒基調の長袖、踝丈のワンピースに、白いレースが控えめにあしらわれたエプロン。
それに合わせたカチューシャが可愛らしい、ステレオタイプなメイドだ。美人な妹には何を着せても良く似合う。中身はとんでもなく残念だけど。
一瞬メイド喫茶だったかと思い玄関から表札を確認する。
真崎と書かれてることから間違いなく俺ん家だと分かって安堵した。
「お夕食になさいますか?それともお風呂になさいますか?それとも橙花になさいますか?」
「メシ一択」
「かしこまりました」
そして何時もの挨拶をする橙花にやっぱり安堵する俺。最後の選択肢の必要性なんか、考えるのも飽き飽きだった。
「で」
「?」
「なんの真似だよ橙花。メイドになんかなって」
メシ食って一段落したあと、おかしな事になっている我が妹に事の次第を問う。
とりあえず俺の知っている橙花は人に奉仕するのが好き!という殊勝な性格でも特殊な性癖でもない。
…度を越えた兄好きってのは特殊な性癖だけどな。
「はい、橙花は深く反省しております。」
…あれ?なんだその反応。何時も通りじゃない。
何時もならもっとこう、「私の勝手でしょ?」みたいな…ツンツンな反応をするのに。
それこそ今どき流行りのツンデレ妹の様に…。
「ご主人様の趣向にも無関心で…私は今までずっとただの妹の様に振る舞っておりました」
「いやただの妹はノーパンノーブラで兄の部屋に乱入して押し倒したりしねぇし」
本当に残念な美人だよお前は。
「でも…でも!橙花は見てしまったのです!ご主人様の部屋から…この本を」
す、と差し出されたのは…エロ本だった。
しかもメイド特集。ミニ丈スカートのロリ子ちゃんも、知的な印象の眼鏡ちゃんも、更にはクラシックスタイルの巨乳ちゃんまでもがあられもない姿を晒している。お気に入りの一冊だ。
「おまっ!クローゼット荒らしたのかよ!」
「申し訳有りませんご主人様。どうしても気になってしまって…」
「てかあの場所なんで分かった!?」
「上げ底式なんて、燃え上がってしまったらどうしようかと思いました」
「嘘だろそこまで見抜いてんのかよっ!?」
「ご主人様の事ならば、どんな事も把握するのが、メイドの務めで御座いますわ」
何この子超怖い。
前々から思ってたけど俺より俺の事知ってるとかマジ怖い。俺橙花の事殆ど知らないのに。変態だって以外は。
「ご主人様、お風呂の用意が整いました。お入りになってくださいませ。」
「この流れでそう来るか。わーったよ。入る入る。だから入ってくんなよ。背中流しとかマジ要らねぇからな」
「そう…ですか…」
え、マジでやる気だったの?
☆―――――――――☆
次の日その話をしたら友人にバカウケされたお兄ちゃんでした。
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