「準…に…。」
「隆也?」
「あの歌…聴きたい。」
そう言った隆也の顔は、日に焼けていない病的な白色だった。
-美しきもの-
今から数十年前、隆也が生まれた。
ずっと前の事なのに、その記憶だけは今だって思い出せる。
近所でも有名な位に泣き虫だった俺は、小さいながらも兄となった事を誇らしく思っていた。
隆也は窓から見る風景が大好きだった。
幼い頃から病弱だった隆也は、あまり外には出れず、いつも窓の外を見ていた。
そこしか、隆也と外を繋ぐ所は無かったんだ。
前に何度か隆也に気をつかって友達との約束を断ったことがある。
そんな時、隆也は決まって“遠慮しないで、行きなよ準兄”と言ってくれた。
隆也の目は、そうは言ってなかったけど。
だから俺は、暇さえあれば隆也の部屋で歌を唄った。隆也は俺の歌に合わせてハーモニカを吹いて、それは嬉しそうに微笑むのだ。
そして、隆也と共に窓からの景色を見る。
桜の花弁が舞う春、蝉の音響く夏、月の輝く秋、雪の静けさに微睡む冬…
色んな景色を、隆也と眺めた。
けれど、隆也の体は、月日を経る毎に衰弱していった。
「駄目なら…。」
「何言ってんだよ、俺の歌は隆也のためにあるんだぞ?」
悲しそうな顔で俯く隆也に慌てて声を掛ける。あまり何かを願わない隆也が何かを願うのは珍しくて、呆然としてしまったんだ。
そんな隆也の願いを叶えない訳がなく、俺は早速歌を唄う。
少し遅れて、隆也のハーモニカの音が聞こえてきた。
俺は何時も思っていた。何で隆也がこんな目に遭わなきゃいけないのかって。
隆也は純粋だ。綺麗なものを綺麗だと感じられる。
じゃあ何故、隆也はこんな痛い思いをして、死んでいかなきゃいけないんだ?隆也にはなんの罪もない筈なのに…!
不意に、隆也のハーモニカの音が途切れる。そして隆也は、ベッドに倒れ込んだ。
「隆也!?」
「…じ…にぃ…。」
隆也は蒼白な顔で、笑っていた。
それで、判ってしまった。
これが、隆也の最期のとき―…。
「じゅん…にぃ…。」
「たか…や?」
冷たい隆也の手が俺の頬に触れる。
「ど…な…けしきより…も…じゅんにぃ…が…いち…ばん…きれ…。」
隆也は、そう言ったきり目を開けなかった。
俺に触れていた手も、力なく落ちていく。
隆也の顔は、まるで寝ているかのように安らかで、どんなものよりも美しいと、思った。
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BGM:サンホラのロマンより“美しきもの”
なにやらやってしまった感が強いですよ準阿兄弟パロにサンホラパロの二重パロ。
実は兄弟パロは構想がいっぱいあるんです。ただ字に変換できないだけで…!
いつも思うのですが、私の書く準太はなんとなく慎吾さんにもなり得るようになってしまうのですがどうなんでしょー?
阿部が大人しくなってしまうのはなんででしょー?
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