君が初めて作ったショコラは、苦かったっけ。
「久し振り。何年ぶりだ?」
「さぁ。でも、2年は経ってるね、確実に。」
2月14日、俺は高校の同窓生と会っていた。
本当は3日前に同窓会があったのだが、彼は仕事の都合で来ることができなかったのだ。
そんな中、彼は俺にだけ改めて会う事を申し出た。それは、純粋に嬉しいことだった。
「…結婚、したんだってね。」
「あぁ。」
「新婚旅行は何処行ったの?」
「宮城だよ。行きたがってたから。」
「独眼竜?」
「だろうな。」
彼には結婚の事実を伏せておいた。結局ばれてしまったのだけれど。
別に、隠したくて隠していたのではない。俺から言うのはあまりにも気まずいから、言えなかったのだ。
「なんで言ってくれなかったのかは訊かない。なんとなく判るから。」
「そうしてくれ。」
「実はね、俺も結婚するの。去年の今日告白されて、今日俺から結婚申し込んだ。オッケーしてくれたよ。」
「今日?」
「そう、セント・バレンタインデーに、ね。」
バレンタイン。好意を持つ異性、世話になった人への贈り物。
起源とかそんなものは知らない。だが、そういう日なのだ。習慣というものはそういうものだ。
「そういえば、さ。」
「ん?」
「お前の作った…チョコケーキ?苦かったよな。」
「ガトーショコラのつもりだったんだけど?しょうがないじゃん焦がしちゃったんだから。」
「でも、嬉しかったよ。」
「…思い出話はしないでよ。」
さみしくなる、と彼は言った。それは俺も思っている。
楽しい思い出。けどそれは過去。振り返っても変わらない。
例えば、俺と彼が別れたとしても。
「今日会いに来たのはさ、振っ切るためなんだよ。過去の思い出、過去の男とやらをね。」
「結果は?」
「案外簡単に振り切れたよ。さっきチョコケーキだなんて言われた時に。」
「そりゃよかった。お互いの為にも良いことだ。」
別れた。そして互いに違う道を歩んでいる。もう戻らない。
それを後悔するつもりはない。それを承知で別れたんだから。
「じゃあね。」
「あぁ。気をつけて。」
「浮気すんなよ。」
「不倫されるなよ。」
「笑止。」
君が初めて作ったショコラは、苦かったっけ。
本当は、今でも覚えているけれど、
それはもう、忘れることにしよう。