「そういえば、飛鳥って彼女つくんねーよな。」
「はぁ?」
「俺がみほるちゃんとラブラブになっても気配ねーじゃんか。」
飛鳥は既にぬるくなった缶コーヒーを一息に呷る。
特に何をするでもなく、ただ思いついた事をそのまま口に出したような風な様子で、燈縁は飛鳥の返答を待っていた。
「…お前に言うと負け惜しみみたいに聞こえるんだよね。だから言わない。」
「お前がそんな奴じゃないのは俺がよく知ってる。だから言え。」
空になった缶の製品表示を見ていた飛鳥だったが、すぐに興味を無くしたのか空き缶をくずかごに向って放り投げる。
大きな音をたてて空き缶はくずかごに吸い込まれていった。
「俺、恋愛はしない主義なんだ。誰かを好きになるって、よくわかんない。」
「人生の半分は損してるな。」
「ちゃんと興味が持てないんだよ。この17年間、誰一人として興味を示せない。」
「それは、俺も含めてか?」
「お前、自分が人間だと思ってるの?」
「ひっでー言い方。」
「怪人には、興味を持てるんだけどなぁ…。」
「俺は赤マントか。」
年齢的に知っているのがおかしいであろう単語が燈縁の口から飛び出しても、飛鳥は特に気に留めず、ただあくびするだけだった。
「俺が、他人に興味を持つとしたら。」
「持つとしたら?」
「そいつは…最初で最後の最愛の恋人になるのかもしれない。」
「…。」
恋人、という単語に燈縁の中の何かが反応した。
「燈縁?」
「飛鳥。お前、恋人作んなよ。」
「多分作んないと思うけど、なんで?」
燈縁にも解らなかった。ただそう言いたかっただけで、何故かは燈縁自身はっきりしていなかったのだ。
はっきりさせる気もないのだが。
「お前居ないと、俺がなんかの事情でどうしてもみほるちゃんのそばを離れなきゃいけない時に、一人にするじゃねーか。」
「あぁ、そういう。」
そんな会話の数日後、転校生がやってることを、2人は知らない。
その転校生が、飛鳥の興味を引くことになることなど、燈縁には知る由もなかった。
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