愛していたのは――
気がついたら、此処にいた。
駅のプラットホームには人が疎らに点在している。
閑散とした町の、老朽化の進んだ駅は今にも崩れそうだった。
暫く突っ立ってて、自分が此処にいる理由を探した。手にはトランクを持っている。
徐にトランクを開けた。手帳が入っていた。手帳しか入ってなかった。
捲るとただ一言、
『愛していたのは、』
…きっと本当で、嫌いだったんじゃない。
それは幻想で、もしかしたら本当は嫌いだったのかもしれない。でも、手帳から感じるのは生々しいまでの現実。
誰が書いたのか、思ったのか、多分自分はその人を見たことはないんだろう。
だから、こんな寒い景色の中で、この手帳の赤だけが、自分を温めた。
思われていただけ嬉しいよ。――さん。
駅のアナウンスが電車の到来を告げる。
愛していたのは、きっと本当で、嫌いだったんじゃない。ただ優先順位が下だっただけ。
貴方の顔、貴方が愛した彼女の顔、見たかったよ。
サヨナラ
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