爽やかな梅雨の谷間。
久しぶりの休日というのもあって、俺は妻の幸枝と共に散歩に出かけた。
用心に越したことは無いと、傘を持って。
歩き慣れた道を進む。後ろには幸枝が三歩下がってただ付き従っていた。
言葉など無い。必要もない。
言葉など逆に煩わしい。
不意に、幸枝の足音が消えた気がした。
けれど、振り返らない。
妻を―幸枝を心配し、振り返る俺を、幸枝は望んでなどいないから。
例え幸枝が泡となって消えていたとしても、俺は決して振り返りはしない。
顧みたりなど、しない。
壊れた傘を差し、俺は行く。
頬に、雨が流れた。
其処には返れない、帰らない。
俺は最後まで、お前の望む俺で居たいから。
三日目の梅雨の谷間。
久しぶりの休日だからと、私は義和さんに連れ添い散歩に出かけた。
用心に越したことは無いと、傘を持って。
歩き慣れた道を進む。前には義和さんが、真っ直ぐ前を見据え歩いていた。
言葉なんて、要らない。
この気持ちは、言葉では伝わらないのだから。
貴方の背中を見つめながら、三歩下がって付き従う。
義和さんは、決して振り返らないだろう。
でも、それで良い。
私の知る貴方は、妻を顧みない人だから。
それが、貴方なのだから。
貴方と居れた私は、本当に幸せでした。
貴方と暮らした日々は、宝物でした。
この三日間は、神様からの贈り物。
後悔なんて、しない。
夫の背中を見て、私は逝く。
涙が、頬を伝った。
過去には帰らない、返れない。
私は最期になっても、貴方を愛しています。