「……。」
「…。」
並盛中学校、応接室。
此処に二人の人影があった。
1人は淡々と書類を片づけており、もう一方はその作業をただ見ていた。
「…ねぇ。」
「!はいっ!」
「何か用があってきたんじゃないの?」
「え、えーっと…。」
しどろもどろになる少年―沢田綱吉は、後ろ手に隠した小さな箱を潰れない程度の力で握りしめる。
今日、5月5日は端午の節句であり雲雀恭弥の誕生日でもある。
そんなわけで綱吉はなけなしの小遣いで雲雀への誕生日プレゼントを買ったわけだが、相手はあの風鬼委員長雲雀恭弥。なんと言ってプレゼントを渡すべきか、綱吉には分からなかった。
「とりあえず、その後ろに隠してる物は何か、言ってくれるかい。」
「!や、やだなぁヒバリさんってば。何も隠してなんかないですよ?」
「そう。だったら、手を前に持ってくれば?さっきからずっと後ろに回してるみたいだけど…。」
そんな綱吉の心も知らず、雲雀は挙動不審な綱吉に詰め寄る。
じりじりと詰め寄られ、綱吉は遂に、応接室のドアにまで追い詰められていた。
その焦りからか、綱吉の手から力が抜け、後ろ手に持っていた箱が床に転げ落ちる。
雲雀はその一瞬を見逃さずに、すかさずその箱を手に取った。
「何、これ。」
「そっそれは…っ…!」
言葉に詰まる綱吉、言葉を待つ雲雀。
長い沈黙の後、綱吉はとうとう口を開いた。
「ひ、雲雀さん。」
「何。」
「えっと…誕生日、おめでとう御座います。それ、誕生日プレゼント、です。」
とうとう言ってしまったー!と言わんばかりに顔を赤く染め俯く綱吉。
雲雀はただふぅんと一言言ってその箱を眺めていた。
「綱吉。」
「な…なんでしょうか…?」
「ありがとう。」
「え、」
ありがとう。その言葉に反応して雲雀の顔を見上げた綱吉の額に、柔らかい物が触れた。
雲雀の唇だった。
「ひ、ひひひひ、雲雀さん!!?なっ何を…!!」
突然のキスに大慌てしている綱吉。
それゆえ、雲雀の耳も綱吉の顔と同じくらい赤く染まっていたことを、綱吉は全く気づいていなかった。
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中途半端に終わらせるなよ私。雲雀の偽物具合にまず黒野が吹きました。
今回の綱吉氏は乙女な様です。そして雲雀さん、誕生日おめでとう。一日遅れだけどね。今月中にフリーで何か書くから許して。
君が初めて作ったショコラは、苦かったっけ。
「久し振り。何年ぶりだ?」
「さぁ。でも、2年は経ってるね、確実に。」
2月14日、俺は高校の同窓生と会っていた。
本当は3日前に同窓会があったのだが、彼は仕事の都合で来ることができなかったのだ。
そんな中、彼は俺にだけ改めて会う事を申し出た。それは、純粋に嬉しいことだった。
「…結婚、したんだってね。」
「あぁ。」
「新婚旅行は何処行ったの?」
「宮城だよ。行きたがってたから。」
「独眼竜?」
「だろうな。」
彼には結婚の事実を伏せておいた。結局ばれてしまったのだけれど。
別に、隠したくて隠していたのではない。俺から言うのはあまりにも気まずいから、言えなかったのだ。
「なんで言ってくれなかったのかは訊かない。なんとなく判るから。」
「そうしてくれ。」
「実はね、俺も結婚するの。去年の今日告白されて、今日俺から結婚申し込んだ。オッケーしてくれたよ。」
「今日?」
「そう、セント・バレンタインデーに、ね。」
バレンタイン。好意を持つ異性、世話になった人への贈り物。
起源とかそんなものは知らない。だが、そういう日なのだ。習慣というものはそういうものだ。
「そういえば、さ。」
「ん?」
「お前の作った…チョコケーキ?苦かったよな。」
「ガトーショコラのつもりだったんだけど?しょうがないじゃん焦がしちゃったんだから。」
「でも、嬉しかったよ。」
「…思い出話はしないでよ。」
さみしくなる、と彼は言った。それは俺も思っている。
楽しい思い出。けどそれは過去。振り返っても変わらない。
例えば、俺と彼が別れたとしても。
「今日会いに来たのはさ、振っ切るためなんだよ。過去の思い出、過去の男とやらをね。」
「結果は?」
「案外簡単に振り切れたよ。さっきチョコケーキだなんて言われた時に。」
「そりゃよかった。お互いの為にも良いことだ。」
別れた。そして互いに違う道を歩んでいる。もう戻らない。
それを後悔するつもりはない。それを承知で別れたんだから。
「じゃあね。」
「あぁ。気をつけて。」
「浮気すんなよ。」
「不倫されるなよ。」
「笑止。」
君が初めて作ったショコラは、苦かったっけ。
本当は、今でも覚えているけれど、
それはもう、忘れることにしよう。